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日本社会とグローバル化

「ネイティブ並みの英語力」ではない! これからの企業トレーナー育成

著者 : 佐藤 洋一

みなさん、こんにちは。

前回のコラムでは、21世紀の英語コミュニケーション能力とは何かというテーマでお話をさせていただきました。そしてこのような、英語コミュニケーション能力を育成するために、企業研修はどのような形であるべきなのか、そしてそのような研修が担当できる企業研修講師とは資質とはどのようなものであるのかを考えてみるというのが今回のテーマです。

ところで、これまでの企業研修講師に求められる資質とはどのようなものだったでしょうか?これまでの企業英語研修では、多くの場合、ネイティブの英語能力を基準に考え、ネイティブの使う英語を教えることのできる講師が講師の理想像として掲げられることが多かったのです。当然のことながら、ネイティブ、またはそれと同等の英語力を有していることが講師採用の条件でした。

しかしながら、21世紀になり、英語話者の分布図に変化が生じるようになりました。世界英語(World Englishes)と言われるように、今や英語はネイティブだけのものではなくなりました。英語の非ネイティブも、英語を「共有で中立のコード」とし、自分たちの権利として用いるという言語態度が求められる時代になったということです。最近では、ネイティブの言語能力だけを基準とする英語教育のあり方にも、疑問が投げかけられています。その現れの一つとして、「グロービッシュ」と呼ばれる非ネイティブの用いる英語の教科書や、非ネイティブとして限られた語彙で英語を話すための方法を提案する書籍といった本が、ここ最近、書店の英語書籍コーナーに数多く並ぶようになりました。

このような時代に「ネイティブ並みの英語力」という資質は、企業が求める人材像と合わなくなりつつあるのです。むしろ前回お話しした「コミュニケーション方略3.0」の考えに基づき、英語を用いて人間関係を上手に構築する、英語を用いて効果的に仕事をすることのできる人材が求められるようになってきています。したがって、企業英語トレーナーにも、このような人材を育成することができる能力が求められてきているのです。

現在、私は企業トレーニングを提供しているコンサルティング会社と、新時代の企業英語トレーナー育成プロジェクトを進めています。この産学連携プロジェクトは、非ネイティブとして英語を使いこなせる資質とは何かを洗い出し、ビジネスパーソンが本当に必要な英語コミュニケーション能力を獲得するためにはどのような企業研修カリキュラムが必要なのかを検討していくことに主眼を置いています。また、その一環として、現役の企業英語トレーナー向けにワークショップを行ったり、新たな講師の育成を行ったりしています。このプロジェクトは現在も進行中ですので、今後調査を継続していく中で見えてきた成果など、別の機会にお話しさせていただきたいと思います。

新時代に求められる英語とは、前述の通り、英米を中心とするネイティブ英語のことではなく、むしろ自分の仕事を完遂するために必要な英語のスキルのことを指します。専門用語では「Business English as a Lingua Franca」、その頭文字をとってBELFと呼ばれます。

私はこのようにBELFに基づく人材育成に興味を持つようになったわけですが、それはそもそも私の博士論文の研究プロジェクトに端を発します。このプロジェクトでは、実際の日本企業の中で行われているグローバル化への取り組みについて実態調査を行いました。そして、いくつかの会社組織の中の成功例を取り上げたのですが、その後研究活動を進めていく中で、グローバル人材育成については失敗例も多く認められると言うことに気がつきました。そしてこの失敗例に注目する中で、企業トレーニングのあり方についての考察もさることながら、企業英語トレーナーをどう育成していくかという課題についても考えていくことが必要であるという確信に至りました。 次回は、日本企業のグローバル人材育成の失敗例について紹介していこうと思います。